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ニコチンアミドモノヌクレオチドは化学療法下における卵巣機能と卵母細胞の発育能を保護する

Nicotinamide mononucleotide protects ovarian function and oocyte developmental competence during chemotherapy J Ovarian Res 2025 Aug 23;18(1):193. doi: 10.1186/s13048-025-01782-4.

本研究では、マウスを用いてシクロフォスファミド(CTX)による卵巣へのダメージを評価しました。CTX投与にNMNを投与することで、NMN非投与群に比べて卵巣内のNAD+量が増加し、卵巣予備能やホルモン機能が改善され、酸化ストレスやDNA損傷、細胞死が減少しました。また、卵母細胞の発育率や胚の品質も向上し、将来的な不妊リスクの軽減に有望な非侵襲的治療法となる可能性が示されました。

Control:対照群;CTX:シクロホスファミド群;NMN+CTX:NMN併用CTX群。
CTX群とNMN+CTX群のマウスには、1日目(D1)と6日目(D6)の午前にそれぞれ体重あたり150mg/kgの水溶性シクロホスファミドを腹腔内注射した。一方、対照群には同時刻に同体積の生理食塩水を注射した。NMN+CTX群のマウスはD0からD13まで毎晩200mg/kgのNMNを腹腔内注射し、同時に対照群とCTX群には同体積の生理食塩水を注射した(図:B)。D14の午前、各群のマウスは頸椎脱臼で安楽死させた。その後、左卵巣、右卵巣、血清サンプルを別々に採取し解析に供した。別のマウスは過排卵処理を行い、MII卵母細胞を得て体外受精および胚培養を行った(図:A)。

 

背景

CTXによる卵巣機能不全と不妊症は、特に生殖年齢または若年の女性がん患者にとって深刻な問題となっている。現在多様な生殖機能温存法が存在するが、化学療法と同時に使用可能な効率的かつ非侵襲的な卵巣保護法への需要が強まっている。

DNA損傷とアポトーシスの調節に重要なニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)に着目し、NAD+の前駆体であるニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)がCTX誘発性の卵巣障害に与える保護効果を検討した。

方法

8週齢のメスC57マウスを、コントロール(生理食塩水)、CTX投与群、またはCTX+NMN投与群に分けて試験を実施した。

卵巣内のNAD+量の変化、卵巣予備能(原始・発育卵胞数)、内分泌機能、卵母細胞の活性酸素種生産、DNA損傷とアポトーシスの評価(卵巣組織および胚)、体外受精後の胚発生能(2細胞胚・胚盤胞の形成率、胚の細胞数)を検討した。加えて、保護効果の候補遺伝子(Banp, Rbm47, Sgk1)の発現解析を実施した。

結果

NMN投与は卵巣内のNAD+含量を増加させ、卵巣予備能と内分泌機能を改善した。さらに活性酸素種レベル、DNA損傷、アポトーシスを低減した。

また、2細胞胚及び胚盤胞形成率の向上、胚盤胞の細胞数増加、ROSレベルやDNA損傷の減少も示した。保護機構にはBanp、Rbm47遺伝子や卵母細胞内のSgk1が関与する可能性を示した。

結論

NMNはCTXによる生殖機能障害を抑制する効果を持ち、がん治療の進行を妨げずに利用できる新たな非侵襲的な卵巣保護戦略として期待される。

コメント

この論文では、化学療法による卵巣機能障害と卵母細胞の発達能力低下に対し、NAD+前駆体であるNMNが保護効果を示すことを示しています。これらの結果は、生殖年齢女性が受ける抗がん剤の副作用軽減と生殖能力温存を目指した新たな非侵襲的治療戦略の可能性を示しており、臨床応用に向けた期待が高まります。

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