トレハロースは「Rubicon(オートファジー抑制因子)」を抑制し、オートファジーを活性化する可能性
Rubicon, a Key Molecule for Oxidative Stress-Mediated DNA Damage, in Ovarian Granulosa Cells Antioxidants (Basel) 2025 Apr 15;14(4):470. doi: 10.3390/antiox14040470.
Rubicon(ルビコン)は、主に細胞内の「オートファジー(自食作用)」を抑制する働きを持つタンパク質で、卵巣顆粒膜細胞(GCs)において酸化ストレス(OS)によるDNA損傷を仲介する重要な分子です。加齢による卵巣のOS増加は、生殖能力低下の一因ですが、この研究ではRubiconがオートファジーを抑制し、OS下でのDNA損傷や細胞死を促進することを明らかにしました。また、二糖類トレハロースがRubiconの発現を抑えつつオートファジーを活性化し、GCsのOS耐性を高めDNA損傷を軽減する可能性を示しました。

すべての結果は少なくとも3回以上の独立した実験から得られており、有意差検定も実施された。データは平均±標準誤差(S.E.)で表され、* p < 0.05、** p < 0.01で統計的有意差を示した。(p-ATM, p-p95, gH2AX:DNA損傷に応答して発現増加)
Abstract
背景:加齢は卵巣の過剰な酸化ストレス(OS)を引き起こし、これが卵胞発育に関与する顆粒膜細胞(GCs)の機能低下や生殖能力の障害につながります。
目的:本研究は、GCsにおけるOSとオートファジーの関係を明らかにし、OS耐性を高める化合物の探索を目的としています。
方法:ヒトGC細胞株HGrC1に過酸化水素(H₂O₂)を投与した酸化ストレス条件下で、オートファジー抑制因子Rubiconを標的に解析しました。
結果:HGrC1にH₂O₂を投与すると、オートファジー活性に変化はないものの、DNA損傷を介して細胞生存率が低下しました。一方、オートファジーを活性化するとOS耐性が向上し、逆に抑制すると感受性が増しました。
また、臨床的に安全な物質の中で、二糖類トレハロースはオートファジー活性化剤としてH₂O₂誘導性細胞障害から細胞を保護しました。トレハロースは他の糖類と比較してRubicon発現を抑えつつオートファジーを有意に増強し、DNA損傷応答タンパク質や活性酸素種の産生も減少させました。
RubiconノックダウンはOS誘導DNA損傷を軽減し、過剰発現はDNA損傷と細胞死を増加させました。
結論:オートファジー抑制因子Rubiconが、OS下でのGCsのDNA損傷を仲介する主要分子であることを特定しました。Rubicon発現は加齢卵巣で増加するため、トレハロースは不妊症やOS関連疾患の卵巣機能改善に有効である可能性があります。
コメント
本論文は、加齢に伴う卵巣顆粒膜細胞の酸化ストレス耐性低下のメカニズムを、Rubiconによるオートファジー抑制に着目して解明しています。Rubiconの発現増加がDNA損傷や細胞死を促進し、逆にトレハロースがRubicon発現を抑えオートファジーを活性化することで細胞を保護する知見を示しました。
Rubiconの発現は加齢卵巣で増加するため、Rubiconやオートファジー調節を標的とした治療が不妊症やOS関連疾患の新たな戦略となる可能性を示唆しています。その上で、トレハロースの安全性や臨床応用の可能性にも言及しており、不妊症や加齢性卵巣疾患の新規治療法への応用が期待できます。