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子宮内膜における亜鉛トランスポーターSlc39a10/Zip10は、マウスのプロゲステロン応答と妊娠成立に不可欠である

Endometrial zinc transporter Slc39a10/Zip10 is indispensable for progesterone responsiveness and successful pregnancy in mice PNAS Nexus 2025 Feb 10;4(2):pgaf047. doi: 10.1093/pnasnexus/pgaf047. eCollection 2025 Feb.

微量元素である亜鉛が、マウスやヒトにおける妊娠成立に不可欠であることを示した論文です。本研究では亜鉛トランスポーターSlc39a10/Zip10に注目しました。

ZIP10を遺伝子的に欠損させたマウス(Zip10cKO)は、コントロール群が平均6.8±0.5の仔を産んだのに対し、平均0.6±0.3となりました。Zip10cKO群では、D6で胚が子宮内膜に浸潤できず、D8という早い時期に胚の消失が観察され、不妊になることを確認しました。Zip10cKO群では、胚着床過程においてプロゲステロンの発現が異常に持続していたため、プロゲステロン下流の標的分子の発現を調べたところ、プロゲステロンのシグナル伝達が破綻していることが明らかとなりました。

また、ZIP10ノックダウンによってZIP10の機能がヒトの子宮間膜細胞で保存されているかを検討したところ、ZIP10-shをトランスフェクションすると多くの細胞で細胞質亜鉛イオンの枯渇が誘導されました。さらにZip10-shでは、プロゲステロンのシグナル伝達に重要なGLI1の核-細胞質局在が変化していました。

よって、Zip10を介した亜鉛イオンの細胞質への取り込みが、マウスだけでなく、ヒトにおいてもプロゲステロンのシグナル伝達に重要であることが示唆されました。

A) コントロールおよびZip10cKO雌の妊娠結果。B) コントロールおよびZip10cKO雌のD5からD10までの代表的子宮。着床部位を矢印で示す(青色色素の注入で可視化)。スケールバー:1cm。C) D5において、着床部位の数は、コントロールとZip10cKO雌の間で同等であった。D) 各移植部位の平均湿重量は、D6、D8、D10においてZip10cKOマウスで有意に減少した。E) H&E染色した子宮断面の代表的画像。スケールバー:1mm.dec,decidua;em,embyo。F) D5からD10までの17βエストラジオール(E2)とプロゲステロン(P4)の血清レベル。

 

Abstract

亜鉛は、雌雄の生殖系を含む様々な生物学的機能に重要な微量元素であるが、不妊の根底にある分子メカニズムは不明であった。本研究では、子宮内膜組織における亜鉛シグナル伝達が、マウスの妊娠成立に不可欠であることを明らかにした。

細胞質内の亜鉛濃度を上昇させる亜鉛トランスポーターの1つをコードするSlc39a10/Zip10遺伝子を子宮特異的に欠失させると、胚の子宮内膜への浸潤がうまくいかず、その後胚が失われるために雌性不妊となることを観察した。

Zip10mRNAは子宮組織、特に胚着床時の脱落膜化間膜細胞に発現している。ZIP10が欠損すると、上皮と間膜の間のプロゲステロン・プロゲステロン受容体(PGR)シグナルが減弱し、in vivoでは上皮と間膜の両方でPGRとその標的分子の異常発現が起こる。

研究では、ZIP10の欠損による細胞質内亜鉛イオンの枯渇によって、マウスだけでなくヒトにおいても、in vitroの脱落膜化間膜細胞におけるPGRシグナル伝達に重要なGLI1の核から細胞質への局在変化を阻害することが発見された。

本研究の成果によって、妊娠の成立におけるZIP10を介した亜鉛の恒常性制御の生物学的関連性を浮き彫りにし、またヒトにおける不妊症の予防に役立つことが示唆された。

コメント

亜鉛の摂取が妊娠を希望する女性において重要であることは知られていましたが、その詳細な役割は分かっておらず、本研究は、その分子メカニズムを解明するものです。

亜鉛は体内では生成されないため、食事から意識的に摂取することで、妊娠しやすい身体作りに寄与すると考えられます。

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