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リコピンはアポトーシスとミトコンドリア機能不全の抑制により電離放射線誘発精巣障害を予防する

Lycopene protects against ionizing radiation-induced testicular damage by inhibition of apoptosis and mitochondrial dysfunction Food Sci Nutr. 2024 Jan; 12(1): 534–546.

この研究では、トマトなどに多く含まれるリコピンが電離放射線(放射線治療など)によって誘発される精巣損傷に対する保護効果を持つことが、マウスに対するX線全身照射実験により示されている。特に、アポトーシスの抑制とミトコンドリア機能障害の防止により、リコピンが放射線による損傷から精巣を保護するメカニズムが示された。

Graphical Abstract

Graphical Abstract リコピンはアポトーシスとミトコンドリア機能不全の抑制により電離放射線誘発精巣障害を予防する
IRに曝露したマウスの精巣におけるDNA損傷とアポトーシスに対するリコピンの効果。
IR曝露24時間後の異なるマウス群の精巣切片におけるγH2AX発現(緑色蛍光)の代表的な免疫蛍光画像。スケールバー: 50 μm。(b)γ-H2AX発現の定量的解析。(c)IR曝露24時間後の異なる群のマウスの精巣のTUNEL染色横断切片の代表的画像。黒矢印はアポトーシス細胞を示し、核内に褐色の染色がある。アポトーシス細胞は主に精細管の外層に存在する。スケールバー: 50 μm。(d)異なる群のマウスの精巣切片における精細管あたりのTUNEL陽性細胞数。結果は平均値±SDで表した(n = 6)。IR曝露群との比較では**p < 0.01、# p < 0.05、# p < 0.01。IR曝露によりDNA損傷細胞(γ-H2AX陽性細胞)とアポトーシス細胞(TUNEL陽性細胞)がコントロールに比べ増加していることが確認できるが、リコピンの摂取により上記の細胞がコントロールと同数程度になることが示されている。

電離放射線(IR:X線、γ線などの電磁波)は、精子形成を阻害することにより男性不妊を引き起こす重要な要因の一つである。強い抗酸化作用を有するカロテノイドであるリコピンは、いくつかの実験モデルにおいて、IRによって誘発される酸化的障害から保護することが示されている。

本研究では、C57BL/6マウスを用い、IRによる精巣障害に対するリコピンの保護作用の可能性を検討した。マウスにX線全身照射(4 Gy、1 Gy/分)を単回照射する前に、リコピン(20 mg/kg:トマト100gあたりに含まれるリコピンの量は、約4.2~8.5mg)を連続7日間経口投与した。

その結果、リコピンはX線照射後のマウスの精子の運動性を著しく高め、精子の奇形率を減少させた。また、病理組織学的解析から、リコピンはIRストレス後の精細管の構造的損傷を改善し、精細管上皮の再生を促進することが明らかになった。

またリコピンは、脂質過酸化レベルの低下と抗酸化酵素SOD活性の上昇によって証明されるように、IR誘発酸化ストレスを減弱させた。さらに、リコピンは生殖細胞上皮におけるγH2AX発現とTUNEL陽性細胞数を減少させ、IR曝露によって誘発されたBax/Bcl-2発現の不均衡を回復させた。

加えて、リコピンはIR曝露後のマウスの精巣において、ミトコンドリア膜電位の脱分極とATPの減少を防ぎ、ミトコンドリア複合体I~IVの活性を維持した。また、リコピンは、IRに曝露されたマウスの精巣において、PGC-1α、Nrf1、およびTfamの発現が回復したことから示されるように、ミトコンドリアの生合成を改善した。

これらの結果を総合すると、リコピンはIR誘発精巣障害を緩和し、その根本的なメカニズムには、少なくとも部分的にミトコンドリアのアポトーシス経路の阻害と、ミトコンドリアの呼吸および生合成の維持が関与していることが示唆された。リコピンの有益な効果は、IRによって誘発された精子形成障害と男性不妊症に対するこの植物由来の抗酸化物質の治療の可能性を強調している。

コメント

この研究は、リコピンがIRによる精巣損傷に対して保護効果を持つことを明らかにしており、特にアポトーシスとミトコンドリア機能障害の抑制を通じてその効果を発揮することが示されています。加えて、精巣におけるγH2AX発現解析により、リコピン摂取がX線照射によるDNAダメージを改善する可能性が示されている。この研究結果には、リコピンがIR暴露による生殖器官の保護に役立つ可能性があることが示唆されており、IR療法を受ける患者などに対する新たな治療戦略を提案しています。

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