EPAの補充は脂質代謝の正常化に作用し慢性子宮内膜炎における炎症を改善する可能性
Impaired SREBP1-mediated regulation of lipid metabolism promotes inflammation in chronic endometritis Front Immunol 2025 Jun 5;16:1547949. doi:10.3389/fimmu.2025.1547949
脂質代謝の関連因子であるSREBP1を欠損させたマウスではCD138陽性形質細胞が蓄積し、慢性子宮内膜炎(chronic endometritis, CE)様の炎症と流産が誘発されることが明らかになりました。一方で、エイコサペンタエン酸(EPA)を補うことでマウスの子宮内膜炎症や流産が改善されることが示され、脂質代謝の正常化が炎症抑制に重要であることが示唆されました。

Abstract
背景
慢性子宮内膜炎(CE)は、子宮の炎症性疾患であり、不妊や生殖医療の成績不良と関連している。CEの多くは細菌感染が原因とされているが、抗生物質治療が効果を示さない場合もあり、CEの発症や炎症の持続に関わるメカニズムは十分に解明されていない。
目的
本研究では、着床には影響を与えずに胎児死亡を引き起こす新規のCEモデルマウスを確立し、脂質代謝の異常がその病態に関与するかを明らかにする。
方法
脂質代謝の主要な調節因子であり、脂肪酸やリン脂質の合成を制御するたんぱく質であるSREBP1(Sterol Regulatory Element-Binding Protein 1)を欠損させることで、CEモデルマウスを作成し、子宮組織内のリピドミクス解析を実施した。
また、CEモデルマウスにエイコサペンタエン酸(EPA)を補給させることで、その症状への効果を解析した。
結果
SREBP1欠損マウスでは、CD138陽性の免疫細胞の蓄積を伴う子宮内膜の炎症が長引き、LPS誘導性子宮内膜炎モデルで流産を引き起こし、CEを模倣した。リピドミクス解析では、SREBP1を合成する遺伝子であるSrebf1の欠損により子宮組織内のEPAを含むリン脂質が著しく減少することが明らかになった。
また、食事によるEPA補給は、子宮内膜のEPA含有リン脂質レベルを上昇させ、Srebf1欠損 CEマウスにおける炎症や流産を改善した。
結論
本研究は、子宮内膜リン脂質中の多価不飽和脂肪酸の減少を伴う脂質代謝の異常が、CEにおける炎症や流産を促進することを示唆している。
重要なことに、ヒトのCE患者の子宮内膜組織でもEPA含有リン脂質の減少が認められた。したがって、脂質代謝の異常はCEの発症に重要な役割を果たしており、新たな治療標的となる可能性がる。
コメント
SREBP1は脂質代謝の主要な転写因子であり、その機能障害は慢性子宮内膜炎(CE)の炎症を増悪させ、生児出生率を低下させる可能性が示されました。
本研究では、Srebf1欠損マウスにおいて、LPS投与によって誘導されたCEの流産率は極めて高く、産仔数は0と報告されました。
驚くべきは、EPA補給によりSrebf1欠損マウスの流産率が改善された点です。CE患者でもEPA含有リン脂質の減少が認められ、脂質代謝異常がCEの発症や持続的炎症に重要な役割を果たすことが示唆されます。