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ニコチンアミドモノヌクレオチドの補充は、マクロファージと好中球の炎症特性を再構築することにより、虚血再灌流により誘発される精巣障害を改善する

Nicotinamide mononucleotide supplementation ameliorates testicular damage induced by ischemia-reperfusion through reshaping macrophage and neutrophil inflammatory properties Int Immunopharmacol 2025;152:114407. doi:10.1016/j.intimp.2025.114407

この研究は、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)補給が精巣虚血再灌流(I/R)障害に与える保護効果を検討したものです。マウスの精巣捻転モデルにおいて、NMNは精巣組織の損傷を軽減し、精子形成機能を改善しました。その機序として、マクロファージや好中球の炎症表現型を再構築し、炎症性サイトカイン(IL-6, TNF-αなど)の発現を抑制し、抗炎症性因子の増加を促進することが示されました。

さらに、NMNはNAD+レベルを回復させ、オートファジーやミトコンドリア機能の調節にも寄与していました。本研究は、NMNが免疫細胞の機能を介して精巣I/R障害に対し有益な作用を持つ可能性を示すものであり、男性不妊や急性精巣障害の治療への応用が期待されます。

 

Sham:偽薬投与群、I/R-Saline:I/R+生理食塩水投与群、I/R-NMN:I/R+NMN投与群。(B)各群のマウス血中テストステロンの定量分析、各群n=6。(C)各群マウスの精子代表写真。(D-F)各群における精子運動性(D)、精子密度(E)、精子変形(F)の統計解析、各群n=6。

 

Abstract

背景:虚血再灌流(I/R)傷害は、精巣捻転-剥離(T/D)の主な病態生理である。しかし、精巣I/R障害に対する安全で効果的な治療法はない。

方法:偽薬投与群(Sham)、I/R+生理食塩水投与群、I/R+NMN投与群において、定量的逆転写PCR法(qRT-PCR法)によりNAD+関連遺伝子のレベルを測定した。精巣NAD+、マロンジアルデヒド(MDA)、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)を評価した。

精子の質、テストステロン分泌、生殖細胞数などの精巣機能マーカーを群間で比較した。活性酸素種(ROS)、アポトーシス、免疫細胞はフローサイトメトリーで解析した。

炎症遺伝子の発現、生殖細胞マーカー、p65とSTAT3のリン酸化は、それぞれqRT-PCR、免疫蛍光、ウェスタンブロットで評価した。

結果:本研究では、マウスの捻転剥離による精巣損傷におけるNMN補給治療の可能性を分析した。

NMNの補充は、精巣のNAD+含有量を増加させ、血清テストステロン濃度を上昇させ、ライディッヒ細胞および生殖細胞の傷害を予防し、精子量を改善することができた。

メカニズム的には、NMNの補充は、極めて敵対的な免疫微小環境を緩和した。具体的には、NMNの補充は、I/R傷害を受けた精巣における酸化ストレスと細胞アポトーシスを緩和し、炎症経路におけるp-p65とp-STAT3のタンパク質発現をダウンレギュレートし、精巣組織における炎症反応の過剰な活性化を抑制し、マクロファージと好中球の炎症特性を再構築することができた。

結論:NMN補充による有益な効果は、NAD+を高めることがI/R誘発精巣障害の臨床転帰を改善する有望かつ安全な戦略である可能性を示した。

コメント

本研究は、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)の抗炎症効果に着目し、虚血再灌流(I/R)による精巣障害モデルにおける保護作用を詳細に検討した点で高く評価されます。

特に、マクロファージと好中球の炎症表現型の変化に注目し、NMNがNAD⁺レベルを回復させることで免疫細胞の機能を再構築し、組織損傷と精子形成能の改善に寄与することを示しました。炎症性サイトカインの抑制やオートファジーの制御など多面的な作用機序を明らかにしており、NMNの生殖医学への応用可能性を強く示唆する内容です。

ただし、臨床応用には今後ヒトでの検証が不可欠であり、過剰補給時の影響など安全性の検討も必要です。

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